我々が患者様にお出しするお薬は医療用医薬品といわれ、処方箋が必要なものです。医療用医薬品は先発医薬品(新薬)とジェネリック医薬品(後発医薬品)に分けられます。先発医薬品とジェネリック医薬品は完全に同じものではありません。先発医薬品の特許は10年から20年で切れ、その後、多くのジェネリック医薬品が発売されます。しかし、製剤特許や用法特許が残っているため、薬効を発揮する骨格は同じでも、添加物や製造方法までは同じにできないことがあります。
つまり、お薬の薬効成分は同じでも、添加物やコーティング工程が違うため、先発医薬品に比べて効きが悪かったり、先発医薬品ではなかったような副作用が出る恐れがあります。ただ、ジェネリック医薬品はメーカーの企業努力で、服用しやすい形状(口腔内崩壊錠など)になっていたり、塗布しやすい形状(スプレーボトルなど)になっていたり、先発医薬品よりも付加価値の高い製品も中にはあります。まずは皆さんにご理解いただきたいのは、先発医薬品と多くのジェネリック医薬品は完全な同一品ではないということです。
オーソライズド「authorize: 権限を与える」からきている造語です。先発医薬品メーカーがジェネリック医薬品メーカーと契約し、ジェネリック医薬品メーカーに特許の使用権を与えることにより、先発品と完全に同一の医療用医薬品がジェネリック医薬品として発売されているのです。これを「オーソライズドジェネリック医薬品」と言い、他のジェネリック医薬品とは区別して使用されています。まだ馴染みの薄い概念ですので、うまく漢字表現されておりません。実際は、先発医薬品メーカーの多くがジェネリック医薬品メーカーを関連子会社として持っていたり、先発医薬品メーカー自体がジェネリック医薬品を製造していたり、ということが多くあります。先発医薬品メーカーとしては特許が切れる前に、それまでに開拓した市場を優先的に引き継ぎたい、薬価が下がり売り上げを落としてでも今までのシェアを確保したい、という目論見があるのです。
以前、大学の医局からの派遣で地方の病院に勤務していた頃のお話をさせてもらいます。ネフローゼ症候群という程度の重い腎臓病になった17歳の女の子を受け持ったことがありました。治療に難渋したため、ある免疫抑制薬を併用することになりました。身長や体重、年齢などから適切な使用量を設定して、病院の薬剤部にも相談して慎重に治療を進めました。治療開始から数日経った深夜、病院からのPHSが鳴り「患者さんが痙攣をしているからすぐに来てほしい。」と連絡を受けました。飛び起きて病院に行ってみると、全身を目一杯伸ばした状態で白目をむき、大きく震えている患者さんがいました。病院でできるすべての検査をして、行き着いたのは「薬剤性脳症」でした。使用していた免疫抑制薬は先発医薬品でした。
早急にその製薬会社に連絡を取り、資料を集めてもらうようにお願いしました。薬剤の中止をした数日後には患者さんの意識もしっかりと戻りました。発症から5日位経って、やっと、製薬会社の方が資料を持って説明に来てくれました。患者さんの病態が落ち着き、大学病院への転院が決まろうとした頃でした。私が処方したお薬で副作用を生じさせてしまったので、責任は自分にあるわけですが、その5日間は長く心細く感じました。インターネットや病院図書室で検索できる資料だけでは限界がありました。もっと多くの情報がほしいと切実に感じました。数カ月後にはネフローゼ治療も軌道に乗り大学病院から転院してきました。幸い後遺症がないことを自分の眼で見て安堵した記憶があります。先発医薬品メーカーはジェネリック医薬品メーカーに比べて、財力や人手にある程度余裕があり、より多くの医療情報量の蓄積があると思います。たまたま薬剤を使用した製薬会社が満足できる対応ではなかっただけかも知れませんが、これがジェネリック医薬品を使っていたらどうなっていただろうと考えることがありました。
「オーソライズドジェネリック医薬品」は先発医薬品メーカーが作るジェネリック医薬品と思っていただけると分かりやすいでしょう。大手コンビニエンスストアや大手流通グループが手掛けるプライベートブランド商品によく似ています。プライベートブランド商品の多くはセ●ン・イ●ブンやイオ●が作っているわけではありません。元々のメーカーが委託を受け、安定した販売と引き換えにほぼ同品質の製品をより安価で提供しているのです。包装パッケージは若干異なりますが、同じ工場の生産ラインで作られています。デフレ時代における堅実な消費者の強い味方ですね。「オーソライズドジェネリック医薬品」も多くが先発医薬品と同じ生産ラインで製造されていると聞いております。高い品質でしかも、他の「ジェネリック医薬品」と同じ価格(薬価)です。それに加えて、先発医薬品メーカーの保証もしっかりとついてくるのです。いままでは、ジェネリック医薬品に対して不安を感じながら処方しておりましたが、「オーソライズドジェネリック医薬品」であれば、万が一不測の事態が起こっても先発医薬品と同等の対応をしてもらえる安心があります。日本財政を圧迫する医療費を少しでも削減できるように、患者さんにも「オーソライズドジェネリック医薬品」を勧めてみようと思います。
●現在発売されているオーソライズドジェネリック医薬品● 平成26年 7月 7日現在
アレグラ錠(サノフィ)フェキソフェナジン塩酸塩錠「SANIK」(日医工サノフィ:サノフィと日医工の合同出資会社)
ディオバン錠(ノバルティス)バルサルタン錠「サンド」(サンド:ノバルティスグループのジェネリック医薬品会社)≪予定≫
ブロプレス錠(武田薬品工業)カンデサルタン錠「あすか」(あすか製薬:筆頭株主が武田製薬工業)
※医薬品を適正に使用したにもかかわらず、副作用により一定レベル以上の健康被害を生じた場合は、「医薬品副作用被害救済制度」により医療費等の給付を得ることができます。
(医薬品医療機器総合機構 Home Pgae: www.pmda.go.jp)